ラングドック・ルシヨン地方は六角形のフランスのいちばん下に位置していて、そのさらに下はスペインというところだ。この地域は南フランスとくくられてしまうこともある。でもTGVで下りてきて地中海にぶつかったら、よく言われる南フランスに行きたいひとはそこから右の線路を選んだほうがいい。特に今くらいの季節だとそのほうが楽しいかもしれない。
地中海の素晴らしい眺めは変わらないのに、プロヴァンスと比べるとラングドック・ルシヨンは落ち着いている。最近ではこの地方のワインがずいぶん輸入されるようになった。安いとか飲みやすいという表現がよく使われてきたテロワールだけど、それならプロヴァンスのワインを売るときにはどんなコピーが残されているのか。おいしくない、なんて言うひとがいるかもしれないけど。安易なイメージを作るとしっかりと広めることが難しくなる。ラングドックからなら、ニースへもボルドーにも距離は同じくらいだ。
ラングドック地方にはカルカッソンヌの城塞がある。僕はトゥールーズからカルカッソンヌに向かった。電車に乗っている時間は50分くらいだった。写真で見た城塞だけを想像していたのに、カルカッソンヌの駅を出るとけっこうにぎやかで、まずマクドナルドがあった。特別でない光景が、この町にあるまだ駅前からは見えない世界遺産の存在を大きくしているようだった。
ゆっくりと歩いても城塞まではそんなにかからなかった。カルカッソンヌの城塞に引き寄せられていくような感じがした。城塞の中に入ると、坂道にお店が並んでいた。静かな季節だったということもあるけど、そんなに観光的でもなくて落ち着いた心地のいい歴史の空間だった。
予約しておいたユースホステルに行くと、少ないゲストのほとんどがフランス人だった。城塞の中でも自分の国の遺産を見ているひとがたくさんいた。自分は今まで日本でこういう時間を作ったことがあったのかなと急に思った。
夜になっていくつかのお店のメニューを見てから小さなお店に入った。サラダ・グルマンドとカスレを注文した。頼んだカスレには「authentique」という形容詞が付いていた。サービスのひとに、トゥールーズのカスレと作り方などに違いがあるのかを訊こうと思っていたけど、出てきたカスレに仔羊と鳩が山みたいにのっているのを見てそれはやめることにした。それまでに見たことのない料理だった。
お店を出て城塞の中から街を眺めていると、少し周りが明るくなった。早足で城塞の外に出ると、カルカッソンヌの城壁がライトアップされていた。それにどれくらいの時間目を奪われていたかは思い出せない。死ぬのは大げさだけど、この光を見たかったひとたちは大勢いたんだろう。綺麗だった。
次の日は1時間半くらい電車に乗ってモンペリエに行った。広くて清潔で生活するのによさそうな町だった。ひっそりとモンペリエ地中海映画祭という名前の映画祭が開催されていた。ラングドック・ルシヨンとプロヴァンスの間には、地図からは測ることのできない距離がある。