「ジンガロ」を観るために木場に行った。木場と言っても最寄り駅はひとつではないから、僕は清澄白河の駅から歩くことにした。前はこのへんだってひとによって使う駅が違う地域だったのにずいぶんわかりやすくなった。清洲橋通りからなら森下へのほうが落ち着いて歩けるのかもしれない。門前仲町に向かうなら途中で東京タワーを見ることができる。
「ジンガロ」のための仮設の会場に着くと、もうトイレに並んでいるひとがたくさんいた。開場と開演の時間が同じであることは始まるまで教えてもらえなかった。買い物や飲食をしないで外で待つだけならすこし寒い場所だった。
カレを身に着けて座らないで話している女性や、すこし高いお惣菜を買って食べて待っているひととは違って、僕はこの前日にお誘いをもらうまで「ジンガロ」なんて聞いたこともなかった。フランス語っぽくないのがいい。せっかくだから何も知らないで観ることにした。
倉庫のような建物の中が寒くなかったのは、席がしっかり埋まっていたことと舞台の赤い砂のおかげなのかもしれない。こっちから空気を動かす理由がないのは、まるで教会の中に座っているようだった。描くアジアの雰囲気は、日本人だからフランス人よりもわかるということでもない。疾走する馬とはねる砂からは匂いが起った。太鼓の響きはそれを盛り上げながら落ち着かせていた。遠くから来てやっぱりまた帰っていくような音色だった。
「ジンガロ」を観た半月後に国技館に相撲を見に行った。空いていたけど外国人の観客は多かった。退屈そうだったり寝ていたり。きっと日本人より詳しいひともいる。色んな見方があって楽しい。両国へは森下から歩いても行ける。土俵の砂を見ながら「ジンガロ」を観ていたときのことを思い出した。