2004年のメジャーリーグではいくつかの新しい記録が生まれた。アメリカのひとは何をいちばんに挙げるのだろう。
サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズは一塁ベースまでをとてつもない回数を歩いた。野球というのは点取りゲームでもあるし確率の競技でもある。ボンズの出塁率は六割を超えた。数と率でチームに貢献をしたボンズは、ここ何年かの恒例行事のようにナショナル・リーグの最優秀選手に選出された。
10月の始めに、マリナーズの本拠地であるシアトルで開催された三試合には多くの観客が詰め掛けた。それは春のうちにシーズンが終わってしまったチームの光景ではなかった。その中でイチローは1920年から残っていた年間安打の記録を更新した。その日の観客が望んでいたことは試合に勝つことや点を多く取ることではなかった。
いくつかの幸運からイチローの記録は生まれた。途中からマリナーズは勝つことを期待されなくなった。主力選手をトレードで出して相手からの警戒も少なくなった。もう何をやってもやらなくてもよかった。個人的な数だけを目指してもいいことになった。メジャーリーグと日本の野球は思っているよりも違うところがたくさんある。
最近のメジャーリーグでは長打力と出塁率が高く評価されやすくなっている。それは理にかなっているしそれもいい。野球がそれだけをやればいい競技であればイチローは何倍も本塁打を打ってしまうだろうし、きっと安打を成功する確率はどんどん四割に近づいていくのだろう。でもプロはお客さんがいるからプロでいることができる。何のためにやっているのかをわかっている選手は、もし勝たないとしても強い。でもそれでも一シーズンくらいそんなイチローを見てみたい気もする。
アメリカン・リーグは今年の最優秀選手に、地区優勝に貢献したアナハイム・エンゼルスの選手を選択した。長い敗戦処理の試合をお客さんの楽しみに変えたイチローに、一位の票を投じた記者はいなかった。それは残念なことではなくて、ただ比べる物差しと世界がなかった。表向きの金メダルはいつも一つのほうがいい。地元シアトルの観客が見た世界は、今年のイチローが作ったプロの世界だった。