この仕事をしているとたくさんのひとを見ることができる。お店をやっていなかったらもう会うことがなかったかもしれないと思うひとに会えるときもある。自分が今こういうところまで来れた理由がすこしでもわかるときはやっぱりうれしい。
お店というのは、イメージをお客さんが作っているところもあるし、経営者やお店側の性格が強く見えるところもある。それにフランス料理というと扉を開ける前に勝手に出来てしまっているイメージもある。でも大切なのはお客さんも含めて無理をしないこと。そして続けていくこと。すこし落ち着いて考えれば、自分で自分や自分のお店やその周辺のイメージを創っていけるなんて素敵なことだ。
大勢のお客さんが来てくれるならもちろんうれしい。続けていくためにはそういうことを考えなければいけないし数字も頭に入れておかないといけない。楽しければいいなんて言ったらそのほうがおかしい。その代わりに僕は相当マイペースな人間だから後回しにしていることが山ほどある。
でもすこし意地を張るのをやめて自分の気持ちを出せるなら、本当は僕は一人で来てくれるお客さんがいちばん好きだ。僕もよくそうだった。映画館とご飯を食べる場所には一人でよく行った。僕がなにかを感じるのは高校や大学ではなかったし、物事を調べるときにパソコンを開く自分は今でもいつでも新鮮に思ってしまう。
一人のお客さんとのやりとりで心に残っているものや教えてもらったことはたくさんある。その偶然が今では必然になっているものだってある。僕が営業時間を長めにしているのはそのためかもしれない。旅先からの手紙や個展などの案内を送ってくれる。結婚式に呼んでくれたひともいる。そんなときには数字なんてどうでもいいから意地を張って自分の世界を続けたくなる。本当は自分がいちばん楽しみたいはずなんだから。