欧州選手権が始まった。ワールドカップに比べてもタイトルの位置づけは低くないし、いろいろな意味で観やすいかもしれない。
開幕2日目、リスボンでの前回覇者の初戦の対戦相手はイングランドだった。90分を過ぎてからの信じられないけどでもなにも説明のいらないジネディーヌ・ジダンの2ゴールでフランスは勝った。歴史に残る試合になったのだろうけど、それよりはあまりにも3分間のロスタイムとジダンが特別だった。
僕の世代になると映画でもスポーツでも伝説のように語られるものは多くのものが昔のものと相場が決まっている。だけど間違いなくジダンは生中継で見ることのできるスーパースターだ。外見も話し方も特別なわけじゃない。でもテレビでは彼のプレーをゆっくりと何度も流すしフランス人はそれをため息をつきながら幸せそうに見る。青いユニフォームのジダンを見ることができるのもあとすこししかない。
4年前ほとんどの試合を僕はニースのマセナ広場のスクリーンで観ていた。紙一重の試合が多くてもフランスは強かった。準決勝のポルトガル戦は特別に素晴らしい試合だった。本当に目を離すことができなかった。延長に入ってのポルトガル選手のハンドの判定にはテレビも「ラ マン!ラ マン!」と何度も繰り返した。フランス語は身体の部位をあらわす単語には定冠詞を使わないといけない。そして最後のPKを決めるのはやっぱりジダンだった。僕はこのとき初めてゴールを決めたあとのサッカー選手をかっこいいと思った。今回の開催国であるポルトガルとの試合を僕はもう一度決勝トーナメントで見たい。
イタリアとの決勝はボルドーで観た。この季節はワインのお祭りがある。でも記憶に残ったのはワインではなかった。90分を過ぎてリードされていたことと最後に逆転したことは今回のイングランド戦と同じだった。ダヴィド・トレゼゲがゴールを決めたとき僕のいた野外のお店では頭から椅子が降ってきた。僕の隣では負けそうになって子供になだめるふりをして強気な顔で「セ フィニ」なんて10分前に言っていた父親のほうが目茶苦茶になっていた。オーレシャンピオンがシャンピオンデューロになった夜だった。
そのフランスが2年前のワールドカップでは1点も取れずに予選で姿を消した。トレゼゲは「ひとつの美しい物語が終わった」、ジダンは「僕らは裏口から静かに帰る」と言った。「自分たちのサッカーができなかった」などとは言わない。この先も見てみたいと思えるものがどこかにある。日本人には似合わない言葉だけどこういう勝ち負けは神様が決めているときがあるのかもしれない。