よく訊かれる質問のなかで最も単純なものが「立会川ってどこですか」。
事務的な説明をすると、立会川というのは京浜急行の駅名で、住所にはない。canvasの住所は品川区南大井になっている。大井と聞くと急にイメージがわくひともいるだろうし、立会川の隣駅の鮫洲には免許手続きで通ったひとも多いはずだ。立会川は細い川で第一京浜と交差して流れていて、canvasはその川沿いに建っている。
昨年のいまごろにcanvasで使用する照明の展示会があって、そこで初めてまだ名前も決めていないお店の資料を配った。そのときのコピーは「南大井に新しい光が誕生します」だった。周りのひとにも、品川の南大井でやるんですよ、って言っていた。実際大井町駅から歩いて来れるし、南大井のほうが聞こえがいいと思っていたのかもしれない。
前例がなかったので工事は遅れてしまったのだけれど、建物の周りにキャンバス生地を巻いて初めて内側の明かりをつけたときはびっくりした。そしてそれは川沿いだからきれいなのだった。立会川のおかげで障害物がないから遠くから見えるし、時間帯によっては水面にcanvasが映る。このとき開店の半月くらい前だったのだけれど、レストランの場所が南大井ではなく立会川になった。いちど決めたらイメージを散らかすのはよくないから、取材をしていただくときにはいまでは基本的には立会川という言葉で説明してもらっている。
東京の人間でも立会川という駅、川があることを知っているひとは多くない。僕も何年か前までは縁がなかった。だからこそ自分のペースでできるんじゃないかと思った。そうしたら2月の開店のときは立会川のひとたちはボラで大忙しになってしまった。僕は工事のときから川の魚を眺めていたけれど、あんなになるとは想像できなかった。「ボラのレストランですよね」って真剣に言ってきたひともいた。
イメージを創るには労力と時間をかけないといけないのだ。